選考委員代表挨拶
Top 財団代表挨拶 選考委員代表挨拶 立石賞 研究助成(S)発表 受領者一覧 選考委員 アンケート ログアウト 今回、皆さまにお受けいただく研究助成および立石賞の選考におきまして選考委員長を務めましたので、選考委員会を代表してその経緯と結果を報告させていただきます。助成金贈呈式・立石賞表彰式は、例年ですと5月に皆さまに立石家ゆかりの京都に集まっていただき贈呈式典を開催し、授与するのですが、今回は新型コロナウイルスの影響により、式典が中止となりました。皆さまに直接対面し、研究テーマについて議論、研究成果への期待をお願いできないことは誠に残念です。この場を借りて、皆さま方には当財団の趣意と選考において重視していることをあらためて理解いただき、助成研究課題の研究を進めていただきたいと思います。 はじめに、当財団の助成事業と立石賞についてですが、立石科学技術振興財団は、「技術革新と人間重視の両面から最適な社会環境の実現に寄与する」ことを目的に、エレクトロニクスおよび情報工学の分野で、「人間と機械の調和」を促進する研究および国際交流への助成を行っております。今回で31回目の助成となります。また、2010年には、財団の設立20周年を機に、立石賞を設け「人間と機械の調和」の実現に貢献した研究者に対して顕彰を行っています。立石賞の顕彰は隔年で実施しており、今年は第6回目の立石賞となります。 助成・顕彰の性格 まず、研究助成課題の選考の経緯を報告させていただきます。研究助成課題の選考にあたっては、財団趣意である「人間と機械の調和」の趣意合致度と共に、先進性、独創性、発展性等の研究一般に求められる観点からの審査を行いました。このページに掲載しているスライドは、当財団の研究助成と立石賞顕彰の性格を示しています。本助成は贈呈者と受領者がともに同じ夢を追い、実際の研究推進を助成受領者にお願いするものであり、「財団に代わってどうか良い研究を進めてください」と委託するものであります。未来を託すという観点から、研究実績よりも将来性、可能性を秘めた研究者、研究内容を重視し、選考を行いました。 その結果、研究助成(A)(B)(C)については、今年は189件の応募の中から46件を選考いたしました。研究助成(A)(B)の採択率は約23%、博士後期課程の学生の研究を支援する研究助成(C)は35%でした。応募は全国的な広がりを持ち、その中で20代、30代の若手研究者が51%を占めています。未来を託すという本研究助成の方向性が申請者に理解された結果と考えています。その中で、助成金受領者46名のうち20代、30代の若手研究者は67%に昇ります。 また、2015年から実施している3年間で3,000万円規模の大型研究助成(S)は、今まさに開花しようとする技術の実用化を後押しするために、国際協働、異分野融合、産学連携、地域連携などの多様な研究体制で研究するプロジェクトを助成対象とします。2020年度は16件の応募の中から「人間と機械の融和」という趣意に合致した実用化に近い2件のプロジェクトを採択しました。科学技術研究の成果を社会に還元する一助となればと考えています。 国際交流助成では、2019年度後期の助成を含めますが、37件の応募の中から17件を採択しました。また、国際会議等の開催に対する助成は、28件の応募の中から14件を選考し、助成を行いました。これについても、大きな権威ある国際会議だけでなく、若手が中心となる会議や新しい分野に着目し、採択しました。若い人に新たな研究分野を開拓し、当該分野研究の中心が彼らの周りに形成されることを期待しております。 次に立石賞の選考についてです。功績賞、特別賞ともそれぞれ2名程度を顕彰することになっていますが、自薦他薦を含め候補者の中から、今回は功績賞1名特別賞1名の顕彰となりました。「立石賞功績賞」は過去に当財団の研究助成を受けた研究者から選びます。過去の研究助成を生かし、その後の長年の研究により「人間と機械の調和」の実現に貢献し、その成果を広く社会に還元していただき、立石財団活動の周知にも協力いただいた研究者に謝意を表すために、「立石賞功績賞」が設けられました。今回は横矢直和氏(奈良先端科学技術大学)を選考いたしました。また「立石賞特別賞」は日本発の研究で諸外国に広く認められている「人間と機械の調和」に関する研究者を顕彰するものです。今回は石黒浩氏(大阪大学)を選考しました。立石賞に値することには、選考委員の誰もが賛成するものでありました。 今回受賞される2名について簡単にそのご功績を紹介します。 立石賞功績賞 横矢直和氏の顕彰理由は「時空を超える複合現実メディアへの挑戦~リアルとバーチャルの融合~」での功績です。横矢氏は、近年では多くの応用が見られる複合現実(MR)や拡張現実(AR)の基盤となる技術について、黎明期であった1990年代から研究に取り組み、新領域を切り拓いてきました。ARに関しては、主として現実世界と仮想世界の位置合わせという基本問題に取り組み、カメラ映像からの特徴点の実時間検出・追跡に基づくカメラの位置・姿勢推定アルゴリズムを開発し、ARの屋外利用への道を開拓しました。また、現実世界の仮想化(AV)に関して、遠隔地にあたかも居るかのような感覚を提示するテレプレゼンスについて全方位カメラを用いる方式を世界に先駆けて提案しました。また、ARと組み合わせた拡張テレプレゼンスの概念を提唱し、リアルとバーチャルの融合の世界を先導しました。また横矢氏は、1994年に当財団から「画像理解のための並列協調型アルゴリズムの研究」という研究課題で助成を受けておられ、その成果も今回の受賞対象の研究活動の充実と発展に寄与されました。 立石賞特別賞 石黒浩氏の顕彰理由は「人と関わるロボットの研究開発」での功績です。石黒氏は、コンピュータやスマートフォンに続く、新しい情報メディアとして、人と関わるロボット(通称:コミュニケーションロボット)の研究開発に、世界に先駆けて取り組んできました。このことを、石黒氏は人間に酷似したロボット(通称:アンドロイド)を始めとした、多様な人と関わるロボットを独自に開発し、実社会での受容性などを多くの実証実験等を通して、技術的、認知科学的に解明してきました。単に人間活動を支援するロボットを開発するだけでなく、人間に極めて酷似したロボットの開発を通して、人間の性質や機能そのものを理解する試みを進めています。人間の存在感、身体性、対話、社会性等、従来の科学的な研究だけでは解明が難しい問題を取り扱う新しい研究分野を提唱、開拓、発展させてきました。 今回の研究助成受領者の方々が「人間と機械の調和」を促進する研究に取り組み、将来それを実現いただき、皆さまの中から立石賞受賞者が出ることを期待しております。 以上、選考委員を代表してのご挨拶とさせていただきます。 2020年5月18日 公益財団法人 立石科学技術振興財団選考委員長 阿草 清滋